Consummatory Life

英米文学専攻の大学生が、もっぱら言語学、心理学、脳科学の話をテーマに、人間や社会について、感じたことを発信していきます。より良い人生を開発していくことを目指します。

英文法の知られざる盲点―「話せないのは文法のせい」は本当か??

  久々の投稿となりました。いつもブログを読まれている方はありがとうございます。期待を裏切ることないように、しっかりとした内容を書いていくつもりであります。また、これからは、週1でブログを更新していきます。

さて、今日は英語について、とりわけ「英文法」についてのお話です。言語学、とりわけ「認知言語学 (cognitive linguistics)」の観点から重要なところをピックアップしました。

認知言語学」なんて聞いたこともない人もいるでしょうし、あくまで皆さんが知っている「英文法」についてのお話なので、大丈夫です。気にせず聞いて下さい。しかし、高校英語では(教えてもらうべきなのに)習わない、ハッとするような盲点があるかもしれません。

「こんな違いがあったのか!」

「だったら英文法をもっと真剣に捉えなければ…」

そのように感じて頂けるところがあれば光栄です。今日の内容は以下の2つです。

 

1. そもそも「文法」とはどんな機能を果たすか?

2. 会話やコミュニケーションに「文法学習」は必要ないのか? 

 

大学入試 世界一わかりやすい 英文法・語法の特別講座 (「世界一わかりやすい」特別講座シリーズ)

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結論から入ります。

1. に関してですが、まずは「文を生成するために必要なもの」です。SVO, SVCなどの「文型」や、動詞、接続詞、名詞などの「品詞」、さらには仮定法なんかの「法」など、高校時代に使った文法書に載っているようなものです。これらの知識無くしては文 (sentence) を組み立てることが出来ません。非文法的な文をいくらしゃべっても、意味を成しません。

例えば、以下の2つの文には1つ、非文法的なものが存在します。どちらでしょう?

(a) Tom gave Mary a book.

(b) Gave Tom a Mary book.

答えは (b) です。簡単ですよね。SVOO の「第4文型」で正しいのが (a) になります。解説は必要ないと思います(言語学的には、解説するのにもそれなりに労を要しますが…笑)

では、以下の2つはどうでしょうか?「鳥のように空を飛べたらなぁ…」を表わすのに文法的なのは?

(c) I wish I can fly like a bird.

(d) I wish I could fly like a bird.

はい「仮定法」です。よって (d) が正解。解説はしません(話の内容と異なるので)

 

けれども、今日の話で重要なことは、こんな初歩的な事ではありません。大学へ進学された方なら、「俺らは受験勉強をしたんだ。バカにするなよ!」 と思うはずです。また、当然のごとく、「日本人は文法にこだわり過ぎるから英語を話せなくなるんだ」と言っている人々も、このレベルの文法知識のことを言ってるわけではありませよね。もし上の (a), (b), (c), (d) レベルの知識がないと、「コミュ二ケーション」を強調したい人々も、残念なことに「ミスコミュニケーション」で終わってしまいます(笑)

 

重要なのは次のレヴェルです。

それは、会話(コミュニケーション)において「文法」の果たす機能です。簡単に言えば、「高校英文法」+α が肝心だという意味です。そして、まさにここが「盲点」になります。すなわち、2. においては、簡単に「文法」と一括りにしていますが、正しくは「文法・語法」くらいの意味です。(厳密には、「学校英文法・語法」+「認知文法」や「コロケーション」(語と語の結びつき)その他の文法に関する言語学的知識などを集積した意味での「文法」をさします。※「コロケーション (collocation)」 に関しては、上記の「情報構造」と共に、機会を改めて詳しく見ていきましょう)

恐らく、読者の中には僕なんかより、もっと英文法に詳しい方もいらっしゃると思います。しかし、大学生になってから「文法」の勉強をした記憶のある方はごく少数な気がします。せっかく大学受験まで英語を勉強してきたのに、大学入学したとたん TOEIC や "英会話" (僕には、この "英会話" という言葉の意味が分かりません。会話だろうが文書だろうが、「英語」に変わりはあません)に飛び移ります。

全く問題ないことなのですが、文法に目を向けないところが良くありませんTOEIC の Part5 で3問以上落とすようであれば、文法が怪しいとも言えます)。そういう人に限って、「英語がうまく使えない」と言ったりするのですが、当たり前です!さらなる上のレヴェルでの「英文法」を習得しましょう。これは、「ネイティブの持つ英語の「感覚」を身につけること」と同義です。そのような意味での広義の「文法(能力)」です。

大学に入ったからこそ(英語を使う環境に近くなったからこそ)、「文法の理屈」を学習するべきだと思います。「ネイティヴに近づこう」とするためにも、「なぜこの表現を使うのか?」「なぜこの文法表現を使うのか?」―そういったことを知る必要があります。

 

前置きが長くなりました。では、本題に入ります。「学校文法」が完璧にマスターできていることを前提に、以下に向けてさらなる高みを目指していきましょう。

まずは、高校で学ぶべきなのに何故か教えてもらえない英文法事項を、いくつか問題形式で紹介していきます。これらの内容は、詳しい(良い)文法書ならば載せているような内容ですが、理屈までは載せていません(辞書はキレイにまとめることが目的です)。

大学において、言語学(とりわけ「認知言語学」)を学んだことがある方ならば、誰でも知っている内容です。いいいですか?知っててスゴイことではありません。当然のごとく知っていないと、自ら英語を発信していくことも、それ以前にネイティブ話者の話を理解することすらできない のです。決して自慢ではないですが、以下のことについては僕は高校生の時から知っていました(言語そのものに対する捉え方さえ変化したにせよ、「会話にこそ、最も文法が大切だ」という考えは、高校時代から依然として変わりません)。ではトライしてください。

例解 和文英訳教本 (文法矯正編) --英文表現力を豊かにする

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以下の2つの英文で、Ken が英語を 「習得した」 ことに焦点があてられている表現はどっち?

(e) Mr. Tanaka taught Ken English.

(f) Mr. Tanaka taught Englsih to Ken.

難しいですか?答えは (e) です。(f) は、 Mr. Tanaka が英語を教えたのは(誰か?という文脈で)「(教えたのは)Kenだ」という意味合いがどちらかと言えば強いです。これは「他動性 (transitivity)」や「情報構造」という観点から説明可能です(因みに、(e) のセンテンスはSVOO(第4文型)ですが、言語学用語では「二重目的語構文 (double object construction)」と呼ばれ、(f) はSVO(A)(第3文型)は「与格構文 (dative construction)」と呼ばれます)。

「他動性」とは「他動詞 (transitive verbs)」が目的語(名詞)に与える影響力のことです。覚えるべきは、目的語が2つある場合、動詞の直後の目的語に対する影響力が大きくなります。なので、(e) taught の直後の名詞 "Ken" に対する影響力が大きい、つまり Ken の変化(Ken が英語を習得したこと)に焦点が当たるわけです。それに対して、 (f) では目的語は1つしかなく、当然、目的語である "English" の変化(Ken の方向へ (to) 教えられた)ということが焦点化される訳で、 Ken が習得したかは含意されません(分かりません)。 情報構造は、とても重要な概念で、すべての英文はこれに支配されていると言っても過言ではないので、時を改めて詳しく見ていくことにしましょう。

 

以下の3つの英文で、主観的な発言から客観的な発言の順になるように並び替えよ。

(g) He seemed happy.

(h) He seemed to be happy.

(i) It seemed that he was happy.

答えは、(g), (h), (i) の順です。微小なニュアンスの差になりますが、(g) は彼の表面だけを見て「嬉しそうだった」だという主観的な発言。それに対して (i) になるにつれ、その他の材料をも考慮してた上で(少し時間をかけて推論した結果)、客観的に「やはり彼は嬉しかったのだろう」と言っている感じです。これは少しレベルが高かったと思うので、忘れてくださっても結構です。 

 

次の英文におけるカッコを埋めよ。

This coffee is (      ) hot. I don't like it so hot.  

(j) fairly

(k) rather

答えは (k) rather です。両者とも日本語では「かなり」と訳される副詞ですが、fairly が「(良い意味で)かなり」なのに対し、rather は「(悪い意味で)かなり」です。文脈上、「このコーヒーかなり熱いよ。私、そんなに熱いのはちょっと…」なので、悪い意味の形容詞とコロケーションを作りやすい rather が正解。

 

以下の英文で、自ら義務を負わせるように「宿題をやらなきゃいけないんだ」と意気込んでいる文脈で言っている発言はどっち?

(l) I must do my homework.

(m) I have to do my homework.

答えは (l) must です。(m) have to だと「いやいや」感が漂っています。must はかなり主観的で、主語が1人称の場合は「自らに義務を負わせている感じ」で、対する have to はいくぶん客観的な表現、また「やらせ」感を伴う表現。(宿題をしないと)教師や親がグチグチうるさいから、といった文脈で「仕方なく~しなければならない」ことを表します。

また、友達に謝るといったコンテクストだとすれば、"I must apologize." となり、have to は使えません。謝るという行為とは、「反省を込めた言葉」であって、「いやいや謝る」ものではないですよね?

その他、need to は前者2つの助動詞と異なり、「…する必要がある」といった要点だけをのべるストレートで含意の無い表現です。

ネイティブが教える 英語の語法とライティング

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ようやく冬が終わって温かくなってきた。以下の英文で「春が来た!」を表す正しい表現はどっち?

(n) Spring came.

(o) Spring has come.

答えは (o) has come です。「過去形」と「現在完了」の違いですが、 過去形は「現在」とは関係がありません。(n) だと、単に過去のことで「何年前?のことについて語ってんの?」というふうになります。過ぎ去ってしまった1つの出来事を現在から遠くに見える「」として語っています。それに対して、完了形は文字通り「現在」完了形なので、あくまでも「現在」の出来事(状態)をメインに語っています。

しかし、現在完了形でも、過去の1点から「現在」までを結んだ直線の中で、どこに焦点が当たるかは場合によりけりです。でも、とてもシンプルです。直線全てがイメージされれば、「継続」用法(ex) 「生まれてからずっと東京に住んでいる」)となり、その直線から任意に3つの点だけを焦点化するのであれば「経験」用法(ex) 「これまでに中国に3回行ったことがある」)となり、直線の右端(現在)だけが焦点化されれば「完了・結果」用法になるだけです。(これは僕の考えですが、「認知言語学」における「前景化 (foreground)」と「背景化 (background)」―もしくは「図 (figure)」と「地 (base)」―の観点を上手く取り入れた説明であると考えています)

 

和訳問題

(p) The bus is stopping.

(q) Mike is drowning in the river. 

答え (p) 「バスは止まりかけている(が、まだ完全には止まっていない)」(q) 「マイクが川で溺れ死にかけている(が、まだ死んではいない)」です。

次の設問で-ing に関しては述べますが、-ing は、「~の途中」を表します。間違っても、「バスは止まっている」や「マイクは川で溺れ死んでいる」などと訳してはダメですよ。それだと、バスは静止しており、マイクは既に息絶えて(死亡して)いることになってしまいます。生きてるマイクを勝手に死なせては殺人です(笑)

 

True or False? (正しい表現なら T を、間違いなら F を)

(r) I'm living in Kawasaki.

(s) You are resembling your mother year by year [/more and more as time goes by].

答え。(r) T, (s) T

学校文法では、know, live, resemble などの「状態動詞」は進行形に出来ないと習いますが、ウソなので忘れて下さい。動作動詞だが、状態動詞だが、それは全く無関係でなんです。そんな面倒な事を覚えるのではなく、どんなときに「進行形 (-ing form) が使用されるか、-ing のスキーマ (schema)」(核心語義)を知っていればいつだって応用可能です。-ing のスキーマは「変化(動作)の途中」です。そこから「不安定」や「動的(生き生き感)」などのイメージが派生してきます。「変化の途中」さえ知っていれば十分対応可能ですよね?

具体的に設問を見ていくと、(r) では、「川崎に住む」という行為・状態の「途中」にあるという状況がイメージできれば、進行形で正しいということになります。例えば、「半年後は東京に引っ越すことが決まっている」といった文脈など。すなわち、動詞によって進行形にできるか否かが決まるのでなく、進行形の「途中(行為・状態に終わりがある)」という状況がありえる場合は、そういう意味でのもと、進行形が可能になるということです。実際、この I'm living in...という表現(今は、一時的に…に住んでいます(その後はまた引越しします))は、僕自身、用いる表現が多い表現で(大学生には引っ越しがつきもの)、英語ネイティブ話者の留学生も、不自然なく受け答えてくれます。

(s) でも同様に、「母さんに似ている」といった「普遍の状態」(変化がない・安定)を表す場合は "You resemble your mother closely." よいうふうに「現在形」を使います。そして、このような例の方が一般的です。しかし、"year by year"(年々)"more and more as time goes by"(時が経つにつれてますます)などのような、「変化」を表す語句を伴っていることからも、ここでの動詞 resemble は、明らかに「変化(の途中)」を表していますよね?すなわち、-ing のスキーマにぴったり合致するので、この意味においては進行形でいいのです。

イメージで捉える感覚英文法―認知文法を参照した英語学習法 (開拓社言語・文化選書)

イメージで捉える感覚英文法―認知文法を参照した英語学習法 (開拓社言語・文化選書)

 

 

どうでしたか?これらの問題で、読者の方の多くの盲点が外れたのであれば、嬉しい限りです。しかし、これらの内容は、無数ある例の中の限られたごく一部に過ぎません。

そして、僕がこのブログでこのような説明をしていることは、何も自分の専門分野の知識をひけらかしたいからではありません。そうではなく、現在、英語を話したり(書いたり)、つまるところの「発信型英語」を学習されている方の中の、あまりにも多くがアウトプットの練習だけをしていて、「なかなか身につかない」と嘆いているのを聞いてて、原因はもっとごくごく単純なのになと感じることがしばしばあるからです。

こういう僕は、大学では言語学専攻で、主に、英文法や人間の認知や心理面に興味を持っていろいろと文献をあさっては読んでいるのですが、単にそれだけで、とりたてて帰国子女のように英語がぺらぺら話せるという訳では全くありません(コミュニケーションには全く問題ありませんが)。しかし、言語や認知に関して研究を続け、今のところ博士まで進もうと考えている関係上、効率の良い学習法は自信を持ってアドバイスできると考えています。(※第二言語獲得 (Second Language Aquisition; SLA) に関する文献は、まだそれまで多く目を通せていないので、おいおい紹介できたらな、とは考えています)

 

最後に。

「文法にとらわれるから英語を話せないんだ」という発言をする人たちには、一利あるとも考えています。しかし、そのような発言が妥当性を持ちうるのは、多くの高校で渡されるような無意味な細分化」で溢れる、従来の認識における「文法書に載っている」文法に関してのみです。

ここでぼくが提唱させて頂いているような、「認知文法」を中心とした、良いとこ集めの「文法体系」は、「ネイティブの感覚」そのものを手に入れるために外国人学習者用に設計された「文法」とでも呼べるようなものであって、暗記すべきものではありません。会得するのに時間もかかりません(どれだけみっちりやっても1年程でしょう)。そして、暗記するものでないため忘れることもほとんどありません。感覚として身につければよいだけなのです。

 

是非、あなたの英語を、ダイナミックで、活気あふれる表現に満ちたものに変化させていってもらえれば、何よりの幸せです。

何か不明な点があれば、こちらのブログにいつでもご連絡ください。

 

では、また来週お会いしましょーう♪