Consummatory Life

英米文学専攻の大学生が、もっぱら言語学、心理学、脳科学の話をテーマに、人間や社会について、感じたことを発信していきます。より良い人生を開発していくことを目指します。

睡眠に関する危険な盲信―脳科学から見るアルコールやカフェインと睡眠の関係―

数か月前に facebook でも睡眠に関係する記事を投稿したのですが、あの時の文章はいささか不完全だったと思いましたので、今回、改めてこのブログにて「睡眠」のメカニズムを説明していきたいと思います。

 

今回は、脳科学における研究で分かってきたことをもとに、まず「睡眠とは何か」という話を、以前よりも詳細にしたいと思います。次に、「眠気対策としての効果的な方法」や具体的に「カフェインやアルコールと睡眠との関係」について見ていきます。「眠気覚ましにコーヒーを!」、「寝付きやすいようにお酒を!」といった安易な判断には危険が伴います。そのためにも、知っておきたい意外な盲点を紹介したいです。

 

まず、私たちが「何のために睡眠をとる(とらなければならない)のか?」ですが、ズバリ「脳と身体を回復(休息)させるため」です。これに異論はないと思います。しかし、身体だけであれば、少し横になってじっとしているだけでもある程度は回復できますが、疲れた脳を回復させるためには、「睡眠」しかありません。

 

また、睡眠には「non-REM睡眠」 (眼が動かない睡眠, 主に脳が回復する) と「REM睡眠」 (眼がピクピク動く睡眠, 主に身体が回復する)があります。

 

REMというのは "Rapid Eye Movement" の頭文字です。REM睡眠では、身体が回復し、脳が活発に動いている睡眠です。この時間の脳の主な機能として、情動中枢の大脳辺縁系(怒りや恐怖などの情動を司る)中の「海馬」や「扁桃体」を中心に、「短期記憶」を「長期記憶」に変換する役割があります。

 

眼が動く理由は、「海馬」などにアクセスする神経回路が眼球の運動神経回路の近くを通っているために電気が流れちゃうからと行動心理学では言われているのですが、実際はまだよく分かっていないそうです(苫米地英人, https://www.youtube.com/watch?v=1ZehLWTbUNc) 25:00 あたりです。よければご覧ください)

「イヤな気持ち」を消す技術

「イヤな気持ち」を消す技術

 

 

そして眠りについた後、まずはnon-REM睡眠から入り、次にREM睡眠へ変化し、これを1セット(90分周期)として、複数セット繰り返しています。睡眠には「ロングスリーパー」と「ショートスリーパー」がいて、個人差が大きいのですが、一般的には、最低でも4セット(6時間)の睡眠が好ましいと言われています。

 

茂木健一郎さんは、自著『脳が冴える快眠法』(p. 37)で、「ハーバード大学のチャールズ・チェイスラー医学教授の研究によれば、24時間睡眠をとらない場合、あるいは5時間以下の睡眠を1週間続けた人間の状態は、血中アルコール濃度が0.1%程度で、お酒を飲んだほろ酔いの状態に近い」と述べています。

 

では次に、「何で眠くなるのか?」という話に移ります。 これには理由が2つあります。全く異なるメカニズムです。1つ目は、「サーカディアンリズム」で、2つ目は「ホメオスタシス」です。

 

サーカディアンリズム」(概日リズム)とは、我々のよく言う「体内時計」のことです。我々人間の「サーカディアンリズム」は約25時間です。しかし、私たちは24時間を1日として生活しています。なぜ24時間でも支障が出ないように生活していられるかというと、太陽の光刺激を受けることで、毎朝リセットしているからなんです。そして、朝起きて太陽光を浴びてから約15時間経過すれば、睡眠を誘うホルモンの「メラトニン」の生産さが加速されます。これが、眠気の第一要因です。

 

一方、「ホメオスタシス」とは生理学用語で「恒常性維持機能」と訳されます。暑かったら汗を出して熱を発散させたり、寒かったら毛穴を閉じて体温の放出を抑えたりといったように、外の環境の変化にとらわれず、体内の状態を一定に保つ働きのことを「ホメオスタシス」と言います。すなわち、脳や身体に疲労が蓄積すれば、自然と回復するように眠気に襲われます。皆さんも、夜勤やカラオケオールの後は、朝昼晩に関係なく眠くなりますよね?これは、単に「疲れたから」であって、こういう眠気は「ホメオスタシス」の働きによるものです。これが眠気の第二要因です。

 

ようやくですが、ここまでで睡眠に関する大まかなメカニズムは把握できたと思います。では、最後に「寝だめは出来るのか?」、「眠気対策」、「カフェイン」、「アルコール」との睡眠の関係に移りたいと思います。

 

「寝だめは出来るのか?」に関しては、答えはNo. です。

茂木健一郎さんも、先ほどの著書(p. 84)ではっきりと、「「スリープ・デッド」と呼ばれていて、過去の睡眠不足(借金)を補うことはできるのですが、未来への睡眠(貯金)はできない」と述べています。また、宮崎総一郎さんの『脳に効く「睡眠学」』でも、1964年に世界記録に挑戦し264時間12分の間ずっと起き続けたアメリカの高校生は、その後14時間ほど睡眠をとった後に再び正常に戻ったという記述があります。このように、過去の睡眠不足は補うことが出来ても、「寝だめ」は出来ないのです。  

脳に効く「睡眠学」 (角川SSC新書)

脳に効く「睡眠学」 (角川SSC新書)

 

 

「眠気対策」に関しては簡単で、「仮眠をとること」です。

これは、どんな睡眠に関する本にも挙げられるほど有名かつ効果的な眠気対策法です。2011年に、アメリカの航空管制官の居眠りが問題になりましたが、その後アメリカの国家運輸安全委員会管制官に「26分の仮眠をとること」を義務付けたくらいです。ドイツのデュッセルドルフ大学の研究では、6分程度の仮眠でも実に効果があるとされていますし、60分の仮眠は、その後の脳を10時間活性化させるとする研究もあります。

この時のポイントは、「ベッドや布団で寝ないこと」です。本格的に睡眠をとってしまえば、肝心な夜の睡眠の質を下げてしまったり、眠れない原因となってしまいます。

 

アルコールと睡眠に関しては、「飲んだとしても少量に抑えること、あるいは飲んでしまっても就寝3時間前には必ず飲み終えること」 です。

大量に飲まないことが理想的なのは言うまでもないことですが、少量のアルコールは脳内のGABAという抑制性神経伝達物質を増加させ、逆にドーパミンノルアドレナリンを減少させます。なので、「少量を就寝の3時間前に飲み終える」が最も理想的です。

では、就寝直前に少しでも飲酒をした場合の睡眠の質はいかがなものなのでしょうか?

それは、睡眠中に「無呼吸」という低酸素状態が頻繁に訪れる、という現実です。鼻腔と口腔が喉の奥で交わる「上気道」という部位があるのですが、そこの筋肉が緩んで酸素が十分に肺に行き渡らなくなります。結果として、「朝の目覚めが悪い」だけでなく「日中もダルイ状態が続く」という悪影響があります。

お酒は、就寝よりだいぶ前には飲み終えましょう。

 

最後に、カフェインと睡眠の関係についてですが、「就寝の直前に200mg以上とった場合は、睡眠中かなり頻繁に「覚醒」に近い状態が発生する」ことです。

人は、疲れてくると疲労物質が睡眠中枢に働きかけ、眠気を引き起こすのですが、その疲労物質のアクセスを妨害するはたらきがカフェインにはあります。睡眠中、幾度も「中途覚醒」が起こさせるようになって、浅い眠りしか取れず、朝に起きても眠たかったり、疲労が完全に取れなかったりします。

カフェインの持続効果は30分後に始まり4時間後まで続くので、遅くとも、体温が下がり始める(メラトニンは体温低下によって生成が加速される)午後7時~9時以降にはコーヒーや紅茶などは飲まないようにすれば、眠気への影響は最小限に抑えられ、ぐっすりと深い睡眠がとれます。

 

以上、睡眠について脳科学的に述べさせてもらいました。

不完全な部分も、言い足りない部分も、まだまだあるのですが、大体はこれだけの知識があれば、睡眠はガラッと変わるのではないでしょうか?

 

高校生時代、英作文で、People spend one-third of their life sleeping.  (人々は、人生の約3分の一を眠って過ごす)というセンテンスを書いたのを覚えているのですが、高校生の英作文の問題になるほど、我々人間は睡眠の時間を惜しく感じているのでしょうか?

 

しかし、REM睡眠時の脳のエネルギー消費は、起きて活動している時(覚醒時)と変わらないと言われているほど、活発に動いています。睡眠は、脳や身体を回復させているだけではありません。短期記憶を定着(長期記憶化)させていたり、むしろアクティヴに活動しています。この脳の働きが無ければ、我々は何も覚えることが出来ません。次の日の朝に目が覚めたら、また1から学習しなおさなければならなくなってしまいます。

 

睡眠の時間を無駄だと考えるのは、睡眠に関する知識がないからです。無意識の脳の働きを理解していないから、仕方がないのかもしれませんが、、、

 

是非とも、睡眠のよき理解者となって、健康で快適でハッピーな人生を送りたいものです。

 

 

その他、睡眠に関する本を以下に挙げておきます。 

<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)